『Let’s Pink!』は2009年から2010年にかけて東京で計3回、2014年に沖縄のギャラリーラファイエットにて4回目が開催された展覧会である。この展覧会は「ピンク」をテーマカラーにして、「ピンク」を使った表現に自覚的に向き合い、その豊かな魅力を引き出していく試みである。この試みに参加するアーティストには、「ピンク」というテーマを共有してもらい、この色のもつ新たな可能性を探り出していく。「ピンク」には、癒しの効果や女性ホルモンの分泌を促す効果、穏やかな気持ちにさせる効果などがあると言われているが、このような効果だけではなく、表現の仕方・捉え方の違いによって、この色はいろいろな表情を見せることができるだろう。「ピンク」のもつ深みに包みこまれることもあれば、思いもよらない「ピンク」の魅力に驚きを覚えることもあると思う。
5回目の今回もギャラリーラファイエット(北中城村)にて開催する。今回参加するアーティストは沖縄県出身在住の4名、浦田健二・喜屋武千恵・つじのえみり・山城えりかと、沖縄県外出身関東在住の4名、替場綾乃・土谷尚武・二艘木洋行・渡辺おさむと、企画者である私おさだの計9名である。絵画作品を継続して制作しているアーティストが多く、主に使用している画材は油絵の具(つじの)、岩絵の具等の天然顔料(喜屋武)、アクリル絵の具(替場・山城)、色鉛筆(おさだ)等、アーティストによって様々である。また(パソコンを使用して)デジタル作品を制作しているアーティストは浦田・二艘木・土谷の3名である。その中でも浦田と二艘木は2000年代にインターネット内のお絵描き掲示板というデジタルのペイントツールにて作品を制作・発表し始めたアーティストで、その後は各々の方法でデジタルとアナログを併用しながら、特にデジタルを駆使した特異な作品を(各々全く異なるコンセプト・方法にて)制作している。渡辺のみ、主に立体作品を制作しているアーティストだが、そのポップさや多様な色彩・形の美しさ・面白さ、グラフィック的な要素を含むところには他のアーティストとも共通している点も多々感じられ、スイーツデコの技術をアートに昇華させた第一人者として国内外で活躍している。
今回初めて参加してもらう、つじの・喜屋武・土谷について特記したい。つじのは近年主にランジェリーやユニコーンをモチーフにカラフルな絵画を描くアーティストで、「ピンク」を用いて描くことが多い。喜屋武は沖縄を中心とした東アジアの絵画を調査研究しながら、天然顔料にこだわり県内の赤土、琉球藍も用いて制作するアーティストである。土谷はアメリカのポップアートや東京のグラフィックアートへの造詣が深く、90年代後半からイラストレーターとして第1線で活躍し続けてきたが、今年から肩書をグラフィックアーティストに変えて活動している。替場・山城・おさだは2009年の1回目から参加しており、今回は過去の展覧会も観ていただけた方にも、彼らの新作からまた違う「ピンク」の側面を感じてもらえると思う。敢えて彼ら3名の作品に共通している点を挙げるとすると、曲線を多用した色面を用いた絵画を長年制作しているところだろう。また、非現実的な世界観の中に、替場が今回テーマにした「ピンク」の1要素と考えられる「やさしさ」も3名の作品から感じられる共通点だと思う。以上9名のアーティストたちの表現には、21世紀のこの時代に生きる同時代性を感じながらも、一つのメディアやジャンルに収まりきらない表現の幅も感じられるだろう。
企画者である私、おさだは2013年に13年間生活していた東京を離れ、沖縄に移住した。気候も人々も暖かく、豊かな包容力をもった沖縄という新天地で、アーティストとしての新たな可能性を探り出してきた。奇しくもそれは、人々を包摂して魅了する「ピンク」の新たな可能性を探り出していくという、この『Let’s Pink!』の趣旨とも重なりあっている。2014年に4回目を開催してからちょうど10年となる今年2024年、再び沖縄という場所で県内のアーティストの作品と共に県外のアーティストの作品も紹介することによって新たな息吹を与えることができることに、喜びとやりがいを感じている。是非ご高覧いただきたい。
2024年『Let’s Pink!』おさださとし